彼と出会ったとき、俺は22歳、
バンドをやりながらホテルで指紋が擦り切れるほど働き、
水浸しの洗い場で水虫に悩まされながら
スタジオ代を稼いでいた。
彼は16歳、そのホテルの中華レストランの
ぺーぺーの料理人の駆け出しだった。
先輩たちにいじられてもいつも明るさを忘れない男だった。
今年偶然にも、20年の時間を隔てて、俺達は再会した。
かたや創作書家となり、かたや食通なら誰もが知る
中華の名店のシェフとなって。
耐えた苦しみは成長を促し、
踏み付けられた痛みは強さに変わった。
言葉よりも行動を信じ
行動から生まれた言葉を重ねた。
そして俺たちはふたりでカウンターに座り、杯を交わす。
彼は来年から奥さんの故郷、岡山へ帰る。
料理人人生は続く。
20年前、便所掃除をしていた彼は今、東京ででかい仕事を終えた。
生き馬の目を抜く東京でこの夜、彼はあの頃と変わらぬ明るさと
実直さで笑っている。
伺ったのは和食の名店、新宿「達 菊うら」。
丁寧で優しく、出過ぎず、際立つ。
人柄の表れる素晴しい料理の数々。
二軒目でも白ワイン片手につきることない物語のページ。
終わるまでは続いてゆく。
停滞なんてのはない。
お江戸、備前。
希望の光に向かって。
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