いろいろと状況を知っている彼はそれでも多くを語らず、
「こうじさんの大好きな鰻、目の前で焼きますよ」
そんな連絡だけで夏の素材を感じにこちらへ。
ひとりカウンターに座り、大将が紡ぐ世界に入ってゆく。
生しらす、赤クラゲ、ズッキーニ、とうもろこし、鯨ベーコン。
夏を味わいながらビールを飲んでいるとカウンター越しに小気味好い骨切りの音。
こんな音もひとり飲みならではの悦び。
何も出しゃばらないすべての調和、鱧のお椀。
本当に気持ちにまで優しく入ってくる料理。
心ほぐれて、佐藤の黒をやってると。
珍しい鮎の刺身。
あゆは「香魚」とも書くように刺身で食べるとその意味がよくわかる。
グラスの酒がなくなるちょっと前に静かに次を注いでくれる。
「今、ちょっと荷物は降ろして、酔ってください」。
そんな気遣いが伝わる嬉しい時間。
メインの鰻はタレと塩。
香ばしさの後、ずっと旨味が残り続ける。
技術と心。
まだ音楽活動をやっていたら名曲が生まれるくらいいろんなことを感じられるひととき。
今はこんな風に時間を留めておく。
たくさんの感謝を込めて。
写真には載せてないこれも特別な一品でした。
黒毛和牛のミルフィーユサンド。
満たされるのは胃袋だけじゃない、稀有なお店。
多くの痛みや悔しさを超えてきてたどり着いた「変わらなさ」。
そういう感じだろうか。