故郷の朝。
近くの記憶は消えて、
時間は意味をなさなくなる。
最愛の人は音も灯りも消えたリビングの椅子に座り、遠き日を探すように空虚を見つめている。
そして急に若き日の小さな断片を克明にしゃべりだす。
生きることに必死だったひたむきさと
新芽のような活き活きとした時間は
老いてなお
煌めきだすのか。
無性に走り出したくなった。
すぐに着替え、家を飛び出す。
痛みを振り切ってスピードを上げるほど、
心の慟哭だけが追いついてくる。
息を切らし、信号で止まる。
空は悲しいほどに青く美しい。
受け入れ、抱きしめて。
また走り出す。